
少子高齢化や都市部への人口流出を背景に、特に地方の中小企業において、採用活動が年々、厳しい状況となっており、会社が求める人材を採用できないケースも増えております。
また、求職者が少ないため、応募者を即採用せざるを得ない業界もあり、採用活動は、中小企業にとって経営を揺るがす深刻な問題になりつつあります。
せっかく苦労して採用した人材も理由は様々ですが、すぐに辞めてしまい、また採用活動をするという繰り返しになり、気づけば年中、採用活動をしている企業もあります。
今回は、入社時に会社として最低限行って頂きたい事項を簡単にまとめましたので、ご参照頂ければと思います。
入社前の注意点
当たり前と思われる方も多いかもしれませんが、雇用契約書または雇入通知書などの書面を必ず交付し、労働条件をきちんと説明した上で、採用するようにしましょう。
労働基準法第15条において、労働契約の締結に際して、使用者は労働者に対して、賃金や時間などの労働条件を明示し、書面を交付することを義務付けられていますが、多くの中小企業において、この書面を交付せず、口頭で行ったり、場合によっては、給与の金額の提示もせずに採用しているケースも多く見受けられ、最近の労働基準監督署の調査においても、必ず指摘されております。
このことは、法律上の義務ということだけではなく、会社と従業員がお互いにどのような仕事内容なのか、いくらの給与で、何時から何時まで勤務するのかを明確にすることで、口約束のような曖昧な説明で無用なトラブルを招くことを防ぐためにも必ず書面で交付し、労働条件についての内容について説明すべきだと思います。
また、必要に応じて、就業規則等で定めるなどして、誓約書や身元保証書を提出して頂くことで、会社として労務に対して健全に取り組んでいると感じて頂くことができ、従業員本人だけでなく、ご家族に対しても安心して働いて頂くことを印象づけることもできるので、是非、ご検討頂ければと思います。
入社初日の注意点
実務的には、入社時の挨拶をし、配属先で簡単な業務説明を受けたあと、早速、業務に従事することが多いようですが、入社初日は、会社にとっても従業員にとっても、今後の働き方を左右する特別な日だと思います。
この特別な日に、会社の企業理念や行動指針などを説明して頂くことはもちろんですが、仕事をする上での社会人としての心構えや考え方、社内のルールなどについて、研修を行って頂くことを是非ご検討頂ければと思います。
特に、最近、大きな問題となっている業務中の私用のパソコンやスマートフォンなどのSNSの利用による個人情報や企業情報の流出については、必ず研修して頂きたいと思います。
個人情報や企業情報の流出は、会社の経営にとって大きな影響を及ぼすだけでなく、流出を行った従業員に対しても損害賠償などの責任が生じることを理解して頂くことで、無用なトラブルを防止できます。
入社から試用期間までの注意点
従業員を採用する場合、ほとんどの会社では、『試用期間』を設けているのが一般的ですが、多くの会社で、この『試用期間』の取り扱いについて、誤解されていたり、きちんと運用されていないケースがあります。
特によくある質問として、「『試用期間』だから、すぐに社会保険へ加入しなくてもいいですか。」や「『試用期間』だから解雇も簡単にできますか。」という話をされますが、これはトラブルを招く大きな勘違いです。
一般的に、『試用期間』は、履歴書や面接だけで、その人の能力や適性を見極めることは、非常に難しいものなので、この期間中に採用した従業員の能力や技能、勤務態度などの適性を判断し、正式に正社員として採用するかどうかを検討するために定められています。
この『試用期間』ですが、労働基準法に定めがあるわけではなく、期間の長さや期間の延長など会社の就業規則等である程度自由に定めることができるため、一般の正社員と異なる扱いをしても問題ないと考えることが多いようです。
しかしながら、先に述べた社会保険への加入については、アルバイト等として臨時に雇入れた従業員を正社員に登用するような場合などを除き、初めから正社員として採用した従業員を試用期間中だからという理由で社会保険に加入しないことは違法となってしまいます。
また、試用期間中の解雇や本採用を拒否する場合の解雇には、必ず正当な理由が必要であり、一部の例外を除き、手続きとして解雇予告や解雇予告手当が必要となります。
この『試用期間』は、会社にとってもこれから働く従業員にとってもお互いの信頼関係を構築していく重要な期間だと思います。
会社は、試用期間から正社員へ本採用となる基準を明確にし、従業員に説明した上で、試用期間が終了する前には、必ず従業員と面談をするなど、適切に運用することをご検討頂ければと思います。
おわりに
簡単ですが、今回は入社時に会社として最低限行って頂きたい事項をまとめました。
労働契約の締結や試用期間の運用など、入社時に適切に行って頂くことで、無用なトラブルを防止するとともに、お互いの信頼関係を構築することに役立てるのではないかと考えております。