
近年、職場で社会問題となっている長時間労働やセクハラ、パワハラなどによる従業員の過労、うつ病などに法律で対応するため、平成27年12月に施行されたストレスチェック制度が開始され、メンタルヘルス対策は企業の急務の課題となっております。
イキイキと働くことができない、成果を上げるための働き方ができないなど過労やうつ病を予防するため、企業として「メンタルヘルス対策」に取り組んでいるのが現状だと思います。
この「メンタルヘルス」は、従業員が精神的な疲労やストレス、悩みなどを軽減、緩和し、それらをサポートすることで、精神障害を予防、回復するものだと言われております。
最近、業界として注目されている「レジリエンス」は、まだまだ馴染みのない言葉ですが、もともと、物理学用語である「ストレス(stress)」が「外力による歪み」を意味するのと同様、「レジリエンス(resilience)」は、「外力による歪みを跳ね返す力」という意味で使われ始め、現在は、心理学用語として「復元力」、「耐久力」などと訳されるようになりました。
「メンタルヘルス」と「レジリエンス」の違いは、「メンタルヘルス」が先に説明したように、精神疾患に対する予防的な観点から考えられているのに対して、「レジリエンス」は心をどう鍛えるか、まさに「筋トレ」することで、折れない心を日々どう育てていくかを考えていく対策なのです。
折れない心と言っても、固い棒のようなものではなく、竹のように強い風が吹いても、しなやかに受け流し、打たれても打たれても立ち上がる逆境に強い心を育てることが重要だと考えられており、すでに日本の教育現場では、従来の「褒めて育てる」、「差別をなくす」などといったゆとり教育から脱却し、「叱られても立ち直る」、「差別を跳ね返す」という考え方を育てていく、まさに「レジリエンス」を鍛える教育に変わっていると言われております。
ただ、注意して頂きたいのは、レジリエンスは決してスパルタ教育ではありませんので、対象者に逆境を与えて立ち直る力を鍛えるというわけではなく、また、褒めるかわりにたくさん叱ることで、それに耐える力を養うというわけでもありません。
この「レジリエンス」を鍛えていくには、①自分の強みを知る、②自分が陥りやすい思い込みの原因を知る、③自分を鍛える方法を知る、ということです。
自分の弱みを強みに変える!
自分自身の長所、短所を的確に答えれる人はいるでしょうか。少なくとも、これはというものが2~3つくらいはすぐに思い浮かぶのではないでしょうか。
長所とは、強みで、短所とは弱みと考えたとき、仕事に必要なコンピテンシー(仕事のできる人の行動特性)として、例えば、「冷静さ」や「几帳面さ」などが自分の長所とします。
トラブルにあっても、立ちどころに対応策を提示したり、クレームに対して、うろたえない「冷静さ」は、非常に強みとして発揮されます。しかし、これが行き過ぎてしまうと若干、温かみのない冷たい人と思われることもでてきます。また、「几帳面さ」は、約束、ルールを厳守し、ミスをしないという強みが発揮される一方、行き過ぎてしまうと融通がきかない、柔軟性がない人と思われています。
特に、人は、自分の強みで失敗することが多く、自分を過信してします傾向が強いと言われています。
逆に、自分の短所として、例えば「タイムリーな決断」ができない、「新規開拓力」がないなどといった場合、これらを裏返して考え、プラスに言い換えると、「タイムリーな決断」ができないのではなく、メリット、デメリットを十分検討した上、注意深く行動する「慎重さ」があると言えるし、「新規開拓力」がないのではなく、既存の顧客との緊密さを維持し、一人一人に手厚いサービスを提供しているとも考えられます。
このように自分の長所は短所にもなり、短所は長所にもなるということを知ることで、自分の強みをもっと強く意識することが重要です。
思い込みを知る!
人の行動や感情は出来事から起こるのではなく、思い込みによって起こると言われています。
例えば、絶対に噛むことがない大きな犬の頭を撫でる場合、その犬が大人しければ、怖くはないでしょうが、その犬がやたら自分を吠えてくると手をかまれるのではと恐怖を感じるでしょう。それは、犬は噛むものだという思い込みによるものなのです。
人は、ある出来事が発生したことに対して、この思い込みのメガネを通じて、様々な感情を抱きます。このメガネは現実をゆがませ、ネガティブな感情を生み出す要因となることがあります。
しかし、この怖いと感じるネガティブな感情は決して、不要なものではありません。大きな動物が襲いかかってきたとき「怖い」と感じなければ、動物を恐れて逃げることもありませんし、怒りを感じなければ、戦うこともありません。また落ち込んでしまうという感情は、「体を休めよう」という心のサインなのです。
このネガティブ感情は、人が本来持つ生存本能であり、私たちが生きていく上で、非常に重要な感情であると言えます。このネガティブ感情を強く感じるような体験から多くのことを学び、心が成長していくのも事実なのです。
どう鍛えるか?
最後に、どのように鍛えていくかですが、まず、①強みを強く認識し、自分は人より有能であるという人間の本本能である自己重要感を高めることが重要です。そのために、自分の信条を掲げ、これだけは譲れないというものを持つことです。
次に、②自分はできるという自己効力感を高めることです。そして、③自分自身を支援してくれる周囲との関係を深め、何かあった時にこころの支えになるような人を増やすことです。
最後に、④適切な目標を持つことです。つまり、中長期的な目標に向かっていくためには、目の前の目標をコツコツとクリアしていく必要があり、それらを少しずつ達成していくことで、さらに新たな目標が生まれるというサイクルを継続していくことができます。